中村 亨の【ビジネスEYE】です。
長時間労働の是正を目的とした政府の「働き方改革」では、残業時間の上限を「100時間未満」とすることで合意に至りました。これは、法的強制力のある罰則つき上限として法律に盛り込まれる予定です。
一方、「勤務間インターバル制度」については、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会でも議題にのぼりましたが、立法化には至らず努力義務にとどまりました。導入している企業は2.2%(2015年度)とまだ少ないですが、主に情報サービス産業の企業が自主的に導入しているケースが多いようです。
今回のメルマガでは、「勤務間インターバル」制度について考えてみます。
インターバル制度とは?
「勤務間インターバル制度」とは、勤務終了後に一定時間以上の「休息期間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。
ニトリホールディングスでは、今年の4月から同制度を導入し、退社から出社までに10時間以上の休息を確保することとしました。多様な働き方の推進や心身の健康増進をはかることで、従業員のモチベーションや業務生産性の向上につなげるとしています。
では、参考事例で考えてみましょう。
【事例 インターバルを11時間に設定した場合】勤務時間内(9時から18時)に仕事が終わらず、18時から24時まで残業。
インターバルとして11時間の休息が確保されていますので、終業した24時から翌日11時までは休息時間となります。つまり、翌日の始業時間である9時から11時までの2時間については勤務が免除されますので、実質的に始業は11時からとなります。
EU諸国ではすでに義務化
すでにEU諸国では、EU労働時間指令(2000 年改正)により、インターバル制度が義務化されています。労働者の健康と安全保護の観点から、24時間につき連続11時間、7日につき最低連続24時間の休息時間を設けることが義務づけられ、1日の労働は13時間まで、さらに1週間の総労働時間は48時間までと規定されています。これらはEU諸国における共通の基準となっています。
インターバル制度のメリット
制度導入の最大のメリットは、休息時間を確保することで従業員の健康を増進することです。長時間労働は、過重な負荷による脳血管疾患又は虚血性心疾患や、強い心理的負荷による精神障害等の疾病をもたらす危険性を高めます。最近の研究では、睡眠と心身の疲労回復との関連がより明確になっています。必要な休息・睡眠時間を毎日確保することが重要と言えます。
長時間労働の是正につながる
この制度が広がれば、日本の社会問題ともいえる長時間労働の是正につながります。「深夜2時まで残業 → 翌朝9時出勤」といった事態も避けられ、働きすぎによる健康被害の抑制にも効果が期待できます。
ワークライフバランスが実現する
長時間労働にブレーキをかけることができれば、従業員のプライベート時間が増えます。育児や介護、仕事以外での学びなどに時間を費やすことができますので、ワークライフバランスの実現が可能となります。
「勤務間インターバル制度」導入助成金
最大50万円支給
2017年2月15日より、厚生労働省が中小企業事業主を対象に「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」の申請受付をスタートしました。この助成金は、過重労働の防止および長時間労働の抑制に向け、勤務間インターバル制度を新たに導入、または拡充した中小企業に対し、その実施に要した費用の一部(最大で50万円)を助成するものです。
助成金の支給対象となる事業主は?
支給対象となる事業主は次の通りです(その他、資本・出資額や労働者数に関する要件があります)。
(1)次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること
ア 勤務間インターバルを導入していない事業場
イ すでに休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場
対象となる労働者がその事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
ウ すでに休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入されている事業場
(2)労働時間等の設定の改善を目的とした労働時間の上限設定に積極的に取組む意欲があり、
かつ成果が期待できる事業主であること
支給対象となる取組
以下の取組のうち、いずれか1つ以上を実施する必要があります。
(1)労務管理担当者に対する研修
(2)労働者に対する研修や周知・啓発
(3)外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
(4)就業規則・労使協定等の作成・変更(時間外・休日労働に関する規定の整備など)
(5)労務管理用ソフトウェアの導入・更新
(6)労務管理用機器の導入・更新
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません
なお、支給対象となる取組は、すべての対象事業場において、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入する必要があります。
休息を確保することによって、心身の健康を求める取組である「勤務間インターバル制度」。導入により、従業員の健康確保はもちろん、業務見直し等の業務改善にもつながるでしょう。「経営戦略としての働き方改革」に取組む覚悟が必要とされているのかも知れません。
日本クレアス税理士法人|日本クレアス税理士法人│コーポレート・アドバイザーズでは、会計の専門家の視点から、経営者の次の智慧となるような『ヒント』をご提供しています。