心に響く原動力「メッセージ化」-起業家のプレゼン資料・提案書から得た「箇条書きの極意」( Vol.320)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

前回、前々回と「箇条書きの技術」について、『超・箇条書き』(ダイヤモンド社 / 杉野幹人氏)を基にお伝えしてきました。同書には、杉野氏がシリコンバレーで仕事をともにした500人以上もの起業家のプレゼン資料・提案書から得た「箇条書きの極意」がまとめられています。

本日のメルマガでは、第3の要素「メッセージ化」のコツを中心にお伝えします。

第3の要素「メッセージ化」

箇条書きは、相手の心に響くものでなければなりません。心に響いたからこそ、相手は動く。つまり、原動力になるのです。そのためには、文の表現を磨くこと必要となります。それが「メッセージ化」です。

新入社員Aさんの事例を考えてみます。Aさんは新人研修を終え、営業部に配属されました。営業部では、最初に所信表明を行うのが通例となっています。Aさんは、どのように自分をアピールするのでしょうか?

【 事例1 】所信表明1

私の約束:5か条
1)お客様に喜んでいただける提案を数多く行います
2)相手の心に響く差別化された提案書をつくります
3)できる限り多くの電話によるアプローチを行います
4)心をこめて、かつ効率良く業務にあたります
5)一生懸命、ベストを尽くします

営業部の上司・スタッフはAさんをどのように評価したでしょうか。大半が「普通」と感じ、中には「使えない」といった印象を受ける方もいるでしょう。Aさんの言葉は、一つひとつは耳障りよく聞こえます。ただ当たり前のことを羅列しているに過ぎません。

メッセージ化の要件 ~スタンスをとること~

では、メッセージ化の要件とは、何なのでしょうか?それは「スタンスをとる」「自分の意見をしっかり伝える」ことです。賛成なのか、反対なのか。A案なのかB案なのか。意志表示をしっかり行うことが「スタンスをとる」ことだと杉野氏は述べています。

メッセージ化のコツ ~隠れ重言を排除する~

コツの1つ目は、「隠れ重言」を排除することです。重言とは、「一番最初に」「後で後悔する」「違和感を感じる」など、同じような意味が重複している表現のことです。「最初」なのだから「1番」ですし、「後」で悔やむから「後悔」、といった具合です。

こうした重言だけでなく、「隠れ重言」も排除しなければなりません。「隠れ重言」とは、文章の全体を通しての重複であり、伝える意義がないものです。

先のAさんの5か条にも、隠れ重言があります。
1)「お客様に喜んでいただける提案を数多く行います」
2)「相手の心に響く差別化された提案書をつくります」
■お客様に対して至極当然なことが重ねられています。

4)「心をこめて、かつ効率良く業務にあたります」
5)「一生懸命、ベストを尽くします」
■こちらは対自分ですね。社会人の心構えとでもいいましょうか。

隠れ重言を排除すると、以下のように集約されます。

【 事例2 】所信表明2

私の約束:2か条
1)3年間で5つの新しい提案を行います
2)電話ではスクリプトを練り、戦略的にアプローチします

耳障りの良い言葉を並べるのではなく、ポイントを絞ることで具体化され、さらにはメッセージ性を強めることに成功しています。

メッセージ化のコツ ~否定を使って退路を断つ~

コツの2つ目は、「否定」することで退路を断つことだと、杉野氏は述べています。つまり、「何を否定しているか」を明確にすることで、自分のスタンス(立ち位置)を強調させるのです。事例で比べてみましょう。

【 事例3 】部下の指導方法について

・部下が主体性をもつように育成する
・議論をいとわない

【 事例4 】部下の指導方法について 2

・部下に「答え」ではなく、「目的」を教えて育成する
・無難な答えや落としどころを探るのではなく、議論をいとわない

否定のあり・なしで受ける印象が違うのではないでしょうか。否定を使うことで、よりメッセージが鮮明にかつパワフルになります。

『超・箇条書き』は、大変奥が深いメソッドでした。スピーチの名手といわれた、Appleの共同設立者 故スティーブ・ジョブズ氏やソフトバンクグループの創業者である孫正義氏なども、新商品発表会などにおいて、短い文章を効果的に使っています。

箇条書きの原則は「一文一義」。これに杉野氏が提唱する3要素等を用いて文章を磨くことができれば、相手の関心をぐっと引き寄せることが可能となります。
情報過多のこの時代で、ご自身の発信力や影響力を高めるためには、「箇条書きの技術」が必ずや一助となるでしょう。

 

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