2017.03.23

ビジネスEYE Vol.317


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

過労自殺問題に揺れる大手広告代理店の電通。社員手帳に掲載された「鬼十則」が注目されています。
「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…」
この一節からもわかるように、現在では時代錯誤とも思われるような言葉が並びます。

「鬼十則」の真意とは何か?
本日のメルマガでは、電通「鬼十則」について考えます。

■電通「鬼十則」とは?
電通の「中興の祖」であり、「広告の鬼」と呼ばれた4代目社長 故吉田秀雄氏が1951年に書いたという10ヵ条の遺訓を指します。
吉田氏自らが実践する仕事に対する心構えが示されており、電通社員の心得として長く受け継がれてきました。

【鬼十則】
1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2.仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事は己を小さくする。
4.難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…。
6.周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7.計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10.摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

■神話化された「鬼十則」
その言葉一つひとつが激烈であったこと、そしてその成果が華々しかったが故に、「鬼十則」はいつしか神話化されていきました。
ただ、時とともに吉田氏の本旨・想いとは違った解釈がなされていくようになり、「鬼十則」の言葉だけが独り歩きすることになります。
単なる「功利的ガンバリズム」と同一視され、時には誤解や問題を生むこともあったようです。

現在では過重労働を許す風土をつくりあげた原因であるかのように言われていますが、
真意を汲み取ることを忘れ、言葉尻に踊らされたことこそが、原因なのではないでしょうか。

■手帳から削除しても社員は戻らない
過労自殺の悲劇を受け、電通は労働環境改善に取り組んでいます。
有給休暇の50%以上の取得等を行うなどの施策を発表していますが、根本解決に至るにはまだまだ時間も施策も不足といえるでしょう。

長時間労働は、睡眠不足を招き、健康障害のリスクを高めます。
働き方改革の機運が高まる今こそ、労働基準法に定められた労働条件の遵守はもちろん、職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えるパワーハラスメントについても、職場の一人ひとりがそれぞれの立場から取り組むことが求められます。

1959年に電通社内に出された吉田氏の訓示は次のような言葉がありました。
「常に精神と神経に適当な休養を与えるよう心掛けていないと倒れてしまいます。
第一にできるだけ睡眠をとることです。
夜ふかしを重ねるのは、広告の仕事のむずかしさ、大切さを知らぬ者です。」

当時も相当数の社員が体調を崩していたことがうかがえます。
そして、これを否定・批判する言葉。
「鬼十則」を掲げた吉田氏が本当に伝えたかったのは、純粋に「志を高く持ち仕事に打ち込め」というメッセージだったのでしょう。

社員手帳への掲載を取りやめるといった表面的な対応ではなく、今一度、その言葉を咀嚼して、どう行動していくかを示すべきでしょう。
仕事と生活の調和がとれる企業へ、電通は大変貌が求められます。

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