大塚家具にみる「ターゲットの設定」(Vol.305)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

父と娘、経営権を巡る骨肉の争いが決着して約1年半。新体制での船出となった大塚家具ですが、業績不振で窮地に追い込まれているようです。同社の決算(2016年12月期)は最終赤字となることがほぼ確定的、次なる一手を示せないまま負のループへと突入してしまうかも知れません。本日のメルマガでは、「ターゲットの設定」について考えます。

『大塚家具が業績悪化で窮地』 [週刊ダイヤモンド 2016/12/17]

新生・大塚家具の状況

久美子社長が率いる新生・大塚家具。これまでの成功モデルであった『会員制』を廃止し、『顧客層の拡大』を新戦略として打ち出してきましたが、これに業績は伴わず。約1年半の間に業績低迷、顧客離れと早くも正念場を迎えています。
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16年12月期の第3四半期までの9カ月(1~9月まで)累計で41億円の純損失を計上。10月以降の業績も散々たる内容となりました。経営戦略の立て直しはもちろんですが、赤字補てんと12月末の配当(1株あたり80円)支払いが近々の課題となっています。応急措置として同社は、埼玉県春日部市の土地売却を検討しているようです。

実はこの土地、勝久前社長の頃に12~13億円で購入したものです。交通の便が良いことから、物流効率化するための拠点としての活用を想定していたのでしょう。ちなみにこの土地購入ですが、当時の久美子氏は反対の立場をとっていたようです。実際に売却されることになれば、父のおかげで延命することができるのですから、何とも皮肉なものですね。

新生・大塚家具の失策

新生・大塚家具は、2つの失策を犯すことになります。

中途半端な価格戦略

一つ目が、「中途半端な価格戦略」です。低価格で人気を博すニトリやイケアに対抗すべく、従来よりも低価格な商品を増やし、全方位戦略を敷いてきました。高級でも普及でもなく、その中間の価格帯で展開することで、市場を独占できると考えたのでしょう。
ただ、現在の国内市場は高級品と普及品の明確な二極化が進んでいます。すでに消滅している顧客層をターゲットにした戦略。顧客層を掘り起こせるような策があれば別ですが、このままで通用するはずありません。

二つ目が、「セールによる顧客離れ」です。セールで顧客が離れる?と疑問に思う方も多いでしょう。大塚家具では創業以来、「原則値引きなし」を掟としてきました。商品と価格に対する絶対的な自信の表れです。事実、このモデルは成功し、多くのリピーターを獲得し、ここまでの成長を遂げてきました。このモデルで掴んだ顧客層は、セールの開催に愕然としたでしょう。馴染みであった大塚家具は消滅した、と改めて感じた方も多かったと思います。固定のファンの離脱に加え、「アンカリング効果」による売上低迷。2015年3月以降、セール実施月以外で、店舗売上が前年を超えた月はほとんどないそうです。

2度目の新生・大塚家具

ニトリが好調な理由は様々あります。出店計画や商品開発、物流効率化などが挙げられます。なかでも大きいのが、ビジネスモデルの切り替えです。ニトリは雑貨などいわゆるホームファッションへ進出することで、現在の地位を確立しています。大塚家具との違いは、その機動力と発想力だと思います。

必要なのは顧客層の再設定

ただ、幸いなことに、大塚家具には無借金経営を続いている盤石な財務体質があります。この大きな武器をみすみす無くしてしまう前に、ターゲットとすべき顧客層の再設定を行い、そこに最適化した新たなビジネスモデルを構築する必要があります。ブランドイメージの低下がネックになるのであれば、子会社設立を視野にいれるなど、従来の待ちの業態から、攻めの業態へとチェンジすることも考えるべきではないでしょうか。

ちなみに…、前社長の勝久氏は、高級路線を継続するために「匠大塚」を起業し、旧・大塚家具の手法を使って営業しています。こちらは業績好調なようです。ターゲットにも戦略にもブレがないのが影響しているのでしょう。

 

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