中村 亨の【ビジネスEYE】です。
『 中小タクシー会社に淘汰の波 初乗り運賃410円の波紋』(週刊ダイヤモンド / 2016年10月29日)
東京都内の初乗り運賃が、来年早々にも改定される見通しです。現在の初乗り運賃は730円ですが、これが410円まで引き下げられるようです。実に320円(43.8%OFF)。業績が景気に大きく左右されるタクシー業界が、『運賃引き下げ』へと踏み切る理由とは?
本日のメルマガでは、「クオリティの追求」について考えます。
「値下げ」ではなく「運賃引き下げ」
意外と知られていませんが、タクシー業界はこれまで一度も値下げをしたことがありません。今回の「初乗り運賃引き下げ」について「値下げ」としているメディアもありますが、実際には値下げではなく、あくまで「引き下げ」です。これは業界用語で「初乗り短縮」と呼ばれるもので、初乗り運賃の距離を短縮した分、価格も同様に引き下げた、というものです。
現行では「2km/730円」ですが、これを「1.059kmで410円」に改定、また237m毎に80円加算されますので、2kmだとだいたい730円になるので、現行と差異がなくなります。ちなみに、この計算式だと、運賃が1450円を超えたあたりで現行よりも割高となってきます。このあたりが、純粋に「値下げ」と言えない理由ですね。
運賃引き下げの狙い
近距離の利用回数増に期待
今年8月、国土交通省は初乗り運賃引き下げに係る実証実験を実施しました。実験内容は、都内4か所(新橋駅東口、浅草駅前、新宿駅東口、東大病院前)のタクシー乗り場で初乗り運賃を現行の730円から410円に引き下げ、利用者からアンケートをとるというものでした。
アンケート結果は以下の通り。(国土交通省「東京のタクシー初乗り運賃410円に係る実証実験の結果について」より抜粋)
・日本人利用者の約6割が、410円タクシーになれば利用回数が増えると回答
・回答結果を平均すると、410円タクシーの導入により、タクシーの利用回数が月4.8回から月7.0回、約46%増加するとの結果
・外国人利用者の約8割が、410円タクシーは「安価」又は「適当」と回答
初乗り運賃引き下げに賛成
利用者の半数以上が初乗り運賃引き下げに賛成のようですね。実証実験は日中に行われましたので、利用客のほとんどが近距離であったと推測されます。初乗り運賃+αで行ける距離であれば、移動手段として候補に挙がりやすくなります。
この『ちょい乗り』利用がタクシー業界の狙いでしょう。運賃の組み換えだけで「タクシーは割高」といった負のイメージを払拭でき、高齢者や買い物客などの日常生活需要を喚起できる。そして、事業者にとっては、効率・生産性を向上させることが可能となるのです。
オリンピックの訪日外国人に期待
また、2020年の東京オリンピックも視野に入っているでしょう。日本のタクシー初乗り運賃は、海外のなかでも高い設定になっています。
ニューヨーク :約280円
ロンドン :約400円
フランス : 約270円
ドイツ : 約400円
今回の運賃改正となれば、主要国水準となりますので、訪日外国人にもストレスなく利用いただけるでしょう。
中小タクシー会社に淘汰の波
今回の運賃改定は、顧客層の違いから大手タクシー会社に有利と言われています。大手の営業エリアが都心部であるのに対し、中小は郊外の住宅街です。長距離利用者の獲得が難しいため、駅から自宅までといった近距離でのピストン輸送がメインとなります。その売上の柱となるピストン輸送の料金が下げられる…。客数がそれに比例して増えれば問題ないのですが、その確約はどこにもありません。業績悪化で経営が成り立たなくなれば、淘汰の波が押し寄せてくるでしょう。タクシー業界は「運賃引き下げ」を契機に一段と事業再編が進むことになります。
今回の施策は、業界全体でイメージ戦略に打って出たという感が強いです。つまり、これだけでは業界を立て直すには不十分だと言えるでしょう。大手も中小も本質的には『サービスのクオリティ』を追求していくべきです。
4年連続で世界一に輝いたイギリスのBlack Cabが参考になるのではないでしょうか。Black Cabは、厳しい免許試験でクオリティを維持します。自らを律することで、自負が生まれ、それがハイクオリティなサービスへと昇華していく。この流れが現場に根付けば、タクシー業界全体の展望が開けるような気がしています。
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