買収先は、外食に次ぐ収益源と位置付ける「小売事業」。ゼンショーにみる「M&A戦略」について(Vol.298)


『外食の風雲児ゼンショー、買収戦略が再始動 「フジマート」を傘下に』(日本経済新聞 電子版 / 2016年10月19日)

積極的なM&Aで成長・拡大を実現してきたゼンショー。牛丼店「すき家」の過重労働や防犯面での問題が浮き彫りとなり、一時中断されていたM&A戦略が2年の沈黙を破り再始動するようです。買収先は、外食に次ぐ収益源と位置付ける「小売事業」。消費飽和と言われて久しい事業への投資の真意とは?

本日のメルマガでは、ゼンショーにみる「M&A戦略」について考えます。

ゼンショー、M&Aの軌跡

ゼンショーは、2000年以降、積極的なM&A戦略を実践してきました。本業の外食事業に限らず、異業種にも積極的に参入し、急速な成長・拡大を実現してきました。また、2014年には定款の一部を変更し、百貨店小売事業、調剤薬局事業、酒類販売事業、売電事業、ビル清掃事業への参入も視野に入れています。

ゼンショーHDのM&A実績

外食事業:ココスジャパン、ジョリーパスタ、なか卯 etc…
小売事業:マルヤ、山口スーパー、尾張屋
老人福祉事業:介護サービス輝(かがやき)

成長・拡大路線を推し進める一方で、有利子負債の急増や不採算チェーンの統廃合(ウェンディーズetc…)などが経営の重しとなりました。なかでも衝撃的だったのが、すき家での長時間の過酷労働と防犯面での問題が露呈したことです。この2つの問題が、同社のM&A戦略を足止めしたといっても過言ではありません。アルバイト・パートの離職が進み、一部の店舗では一時閉鎖・深夜営業休止といった事態に追い込まれるなど、経営を危ぶむ声も聞かれました。

業績急回復のゼンショー

窮地に陥ったゼンショーですが、業務体制の改善により深夜営業を順次再開したことで、次第に業績が回復していきます。体制構築と人材費による想定外のコストはかかったものの、それを売上増加がカバーできたこと、また、深夜営業再開が食材廃棄ロスの減少にも一役買い、原価の改善につながったことが下支え要因となりました。

このほかにも、不採算であった米国でのココス事業から撤退も効果があったようです。こうして体力を戻したゼンショーは、積極的なM&A戦略を再始動することになります。

主力外の事業フジマートを買収

M&A戦略再始動の第1弾は、食品スーパー「フジマート」などを手掛ける群馬県のフジタコーポレーション。ゼンショーとしては過去最大規模の約124億円での買収となります。主力の外食事業ではなく、敢えて小売事業を強化するM&Aに踏み切った理由はなんでしょうか。

差別化がゼンショーHDの強み

ゼンショーは傘下に埼玉県、千葉県が拠点の食品スーパー、青果店を計約100店展開しています。今回のフジマートは、群馬県を地盤としていますので、地理的にみて食材調達や物流、店舗運営などの面で相乗効果を狙ったものでしょう。また、推測になりますが、セブン&アイHDやイオンとの差別化を図る意味で、”小商圏”を意識した『他社にマネできない独自の姿を確立する』ことを目指していると考えられます。

「マネできない」ということは、完全なる差別化ができているのと同意であり、ゼンショーHD全体の強みともなります。今後も同社はカテゴリーキラーを目指し、積極的なM&A戦略を継続するでしょう。ただし、人材戦略も同時並行で行わなければなりません。急速な拡大は、往々にして従業員を置き去りにしてしまいます。現場力を鍛える意味でも、ビジョンの共有、そして経営判断と個々の判断とのギャップを埋める作業を早急に行うべきだと考えます。

 

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