『中国レノボ・グループ、富士通とも事業統合』(週刊エコノミスト / 2016年10月11日特大号)
パソコン世界シェア首位の中国レノボ・グループ。同社は「新生レノボ」を掲げ、パソコン事業に過度に依存しない収益構造を築こうと事業の多角化を進めてきましたが、今回、本業回帰ともみえる動きをしています。本日のメルマガでは、レノボにみる「多角化の失敗」について考えます。
スマホ事業へ進出・失敗
世界的にパソコンの販売台数が低下しています。IT分野の調査企業ガートナーの調査結果によると、2011年に3億6536万台だったパソコン世界販売台数は、2015年には2億8870万台にまで縮小。なんと4年連続で減少しています。
Windows10への買い替え需要などを見越し、専門家のなかには「PC事業はしばらく安泰」とみる向きもあります。それはあくまで短期的な話でしょう。一巡後には再び減少すると推測されます。理由は非常に単純です。スマホやタブレットが普及したことで、『PCである必要性』が薄れているからです。事実、『スマホネイティブ(パソコンが使えない若者)』がニュースで取り上げられるなど、PC離れの動きは鮮明となってきています。
PCへの1点依存から事業を広げる戦略
レノボは、PC事業が売上の約7割を占めます。ゆえに、販売台数の減少は経営危機へと直結します。レノボの楊元慶(ヤンユワンチン)会長兼CEOは、日経ビジネスのインタビューで次のようにコメントしています。「個人向けPC市場は飽和状態にあることは事実。PC事業に依存し過ぎず、次の成長する世界を探さないといけない。」そこで次の世界と定めたのが先にも挙げた『スマホ事業』でした。
レノボはスマホ事業において、「ダブルブランド戦略」をとりました。先進国と新興国(富裕者層)向けには2014年にグーグルから買収した『モトローラ』、新興国には『レノボ』のブランドを使い分けて展開していきました。ただ、アップル・サムスンの2強を崩すには至らず、2年目には販売台数が大幅減に。また、スマホの最大市場である中国においては、新勢力(華為技術、oppo、vivoなど)の台頭を許すなど精彩を欠きました。
スマホ事業もPCと同じ未来を描くか?
スマホ事業が出遅れた原因は、「ブランドへの過信」と「魅力的な商品開発に注力しなかったこと」でしょう。2年目で失敗と判断するには時期尚早かも知れませんが、本体ではすでにリストラ計画が動いているようです。PC事業と同じく、スマホ事業もそう遠くない未来に飽和状態になると考えられます。サムスンが爆発問題で最大の危機を迎えるなか、2強の片翼を担える存在となれるのか否か。レノボの立ち回りに注目です。
原点回帰?富士通との事業統合
前述の楊元慶(ヤンユワンチン)会長兼CEOの発言に反する、富士通との事業統合。原点回帰と言えば見栄えはいいのですが、実際は「スマホ事業の出遅れ(失敗)」により、止む無しといったところでしょうか。とは言え、事業統合により「部品調達」「製造コスト削減」などの『コストシナジー』を得ることはできます。これを機に事業全体をスマートカットすべきでしょう。
レノボは買収により規模を拡大してきた実績(IBM)があります。ただ、現在投資している事業は、開発途中やコンセプト段階のものがほとんどだそうです。実を結ぶには、まだ時間がかかりそうです。本業を如何に堅持し、多角化した事業の成長速度を上げられるか。企業としての資質を問われることになるでしょう。
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