インバウンド需要が失速する中で考える「ビジネスモデルの寿命」(Vol.291)


コーポレート・アドバイザーズがお届けする「中村 亨の【ビジネスEYE】」です。

『 ラオックス、「 平均客単価4割減 」の巨大衝撃 』(東洋経済オンライン / 2016年8月22日)

家電量販店から免税店への事業転換により、インバウンド・マーケットで成功を収めたラオックス。復活の原動力となった「インバウンド需要」が失速するなか、2016年1~6月期の連結決算がついに赤字へ転落。赤字常態化へ逆戻りの可能性もあるようです。苦境に立たされた同社がなすべきこととは一体なんでしょうか?本日のビジネスEYEでは、「ビジネスモデルの寿命」について考えます。

ラオックスとインバウンド需要

ラオックスは2009年、中国の大手家電量販店を運営する蘇寧雲商の傘下となり、これまでの家電量販店から免税店へと事業転換を行いました。この事業転換が功を奏し、2014年には14期ぶりに黒字化、2015年には80億円の純利益を上げました。爆買いでおなじみの中国人の来日観光客数も順調な伸びをみせ、2015年には大台の500万人に迫る勢いが続いています。

「インバウンド・マーケットは安泰」とみたラオックスはシェア拡大を目論み、積極的な出店攻勢をかけていきます。ところが、事態は急変します。円高・元安に加え、中国政府が「海外で購入した商品に課す関税」を引き上げたのです。例えば、高級時計であれば30%から60%へ、酒・化粧品は50%から60%といった具合に税率を引き上げたのです。

来日観光客に限っては増加傾向を維持しているものの、旅行消費額は大幅に減額。タイトルの『ラオックス、「 平均客単価4割減 」の巨大衝撃』の状態にまで陥ったのです。ラオックスの羅怡文社長は強気の姿勢を崩しておらず、成功実績のある現行のビジネスモデルを軸に推し進めていくようです。出店と閉店を繰り返す…なんだかひと昔前のヤマダ電機を彷彿とさせますね。

「成功体験はいらない」

7月に開催した「M&Aサミット2016-Season2-」の基調講演でご登壇いただいた、辻野晃一郎さんの著書のタイトルです。現行のビジネスモデルで成功体験を持つ経営層は、そのビジネスモデルに固執する傾向があり、ビジネスモデルを転換することに目を背けがちになります。このような状況で舵取りを行えば、あらぬ方向へ進んでいくのは明白です。盲目的にビジネスモデルに固執するのではなく、「捨てたからこそ見えてくる世界がある」と考えることが肝要です。

“脱インバウンド戦略”もその一つと言えます。これまで新製品の外箱に中国語で明記していたものを、英語と日本語の2カ国語に変更するなど、グローバルな動きをみせる企業もすでに出てきています。ビジネスモデルには寿命があるということを肝に銘じ、限界を迎える前に新たなビジネスモデルを構築することが求められます。

「物事は完成した時点から崩壊が始まる」
最善手は一手とは限りません。経営者は常に新たなビジネスモデルを思案し、仮説と検証を繰り返す必要があるでしょう。

 

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