ソニーが売却する電池事業から考える「事業の本質」(Vol.289)


コーポレート・アドバイザーズがお届けする「中村 亨の【ビジネスEYE】」です。

「ソニーが売却する電池事業、大赤字でも中核だった理由」 (週刊ダイヤモンド|2016/08/13・20 合併号)

1975年に電池事業を開始したソニー。1991年には世界初のリチウムイオン電池を商品化するなど、ソニーの電池事業は一躍、電子部品ビジネスの中核的存在にまでなりました。ここ最近は海外勢による価格攻勢に押され、苦境に立たされていましたが、昨春には「経営資源を集中させて強化する」(鈴木智之副社長)とし、数ある事業領域の中でも中核とされていました。その電池事業が売却の憂き目に遭うことに…。

本日のビジネスEYEでは、「事業の本質」について考えてみます。

急転直下の電池事業

ソニーの事業領域の中核と位置づけられていた電池事業ですが、2010年から2015年度までの6年間で、営業黒字だったのは2014年度のただの1度だけ。しかも2013年度、2015年度には、それぞれ300億円超の減損損失を計上するなど、その内容は散々たるものでした。電池事業の凋落の原因は、主に3つあります。

【原因1】自社の強みを失った

2006年頃に相次いだノートパソコンの発火事故。事故の対応に追われたことで技術開発の方向転換を余儀なくされ、ソニーの強みであった「常に時代をリードする最先端の技術」が失われていきました。この強みが残されていれば、現在の海外勢による価格攻勢にも十分に対応できたのではないかと思います。

【原因2】事業売却のタイミングを逸する

電池事業は過去に何度も売却話がありましたが、都度見送られてきました。売却話の中には、経済産業省主導の「日の丸電池構想(日産自動車とNECの共同出資による電池会社との統合案)」もありましたが、家電製品の要となる部品で「ソニー」の名を残したいという意向から、結局この提案も見送られました。

ただし、これは表向きの理由ですね。ソニーOBのコメントとして、「売却価格のあまりの低さと、革新機構の執拗な“上から目線”に嫌気が差し、途中棄権した」とありました。面子やプライドといった感情論が先行してしまい、事業そのもののの先見性と客観的な価値判断を見誤ったといえます。

【原因3】優秀な人材の流出

事業売却の話が出る一方で、経営時が中核事業だともてはやす。これにより現場は混乱し、多くの優秀な技術者が流出したようです。語弊があるかもしれませんが、事業売却には賞味期限があります。ここにきてようやく事業売却を決めたソニー。長期間かけて赤字体質から脱却できなかったのが、賞味期限切れの証拠でしょう。

業界再編の流れも

ソニーの電池事業売却の発表後の8月5日。一部メディアが「日産自動車が車載用電池事業から撤退する方針」と報じました。
同社は「憶測にコメントしない」との立場を崩していませんが、仮に撤退が事実であれば、リチウム電池事業の業界再編の動きが活発化することになるでしょう。先の経済産業省主導の「日の丸電池構想」も再び現実味を帯びてきます。

現在、売却候補として世界シェア(リチウム電池市場)第2位のパナソニックのほかに、中国企業の名が挙がっているようです。シャープのように国外流出となれば、日本の産業はまた一歩後退することになります。規模を追える体力、他社との差別化が可能な技術開発力などの条件を満たせない企業は淘汰されますが、どちらか一方の条件を満たしているのなら、M&Aにより生き残る道が残されます。ただし、一刻も早く動き出すことがカギとなります。そのためにも、日頃から事業の本質を意識し、現状を把握しておくことが求められます。

今一度、事業の本質とは何かを再確認してみてはいかがでしょうか。

 

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