ユニクロとそのライバル企業から考える「値下げの功罪」( Vol.275)


コーポレート・アドバイザーズがお届けする「中村 亨の【ビジネスEYE】」です。

「値上げ後に早くも値下げ 迷走のユニクロ、遠のく客」 (週刊東洋経済/2016年4月23日号)

相次ぐ値上げにより顧客離れが止まらないユニクロ。今月7日に行われた中間決算説明会では、ついに“原点回帰”の戦略転換が示されました。『値上げ』により離れた顧客は、『値下げ』で戻るのか。本日のメルマガでは、「値下げの功罪」について触れてみたいと思います。

「今期の業績は不合格、30点」

業績30点とは、中間決算説明会中、厳しい表情を崩すことのなかった柳井会長兼社長の言葉です。では、その内容を確認してみましょう。

海外出店拡大の影響により、売上収益は1兆0116億円(前年同期比6.5%増)と増収だったものの、肝心の営業利益は993億円(同33.8%減)の減益。通期予想も1,200億円(27.0%減)に落ち込む見通しとなっています。海外出店に関しては以前のメルマガでお伝えした通り、収益自体は増加傾向にありますので、その国・その地域特有のニーズを拾い上げ、最適なチャネルでサービスを提供できれば、増益へと転じるのも時間の問題でしょう。

ここで問題となるのは、大幅減益の主因である『国内ユニクロ事業の不振』です。

“原点回帰”の戦略転換

『値上げ』により離れた顧客は『値下げ』で戻るのか。例外はもちろんありますが、ほとんどの顧客は戻らないでしょう。事実、ユニクロは今年2月にすでに価格見直しを実施しているのです。にも関わらず、いまだ客足は戻らず。2月は前年同期比1.8%減、3月は同8.6%減と失速中。この背景があるにも関わらず、今回2度目の『値下げ』を断行したのです。

では『値下げ』の内容をみてみましょう。従来のユニクロは「ハイロー戦略」と呼ばれる手法をとってきました。これは、価格を期間限定の特売などにより変動させることで集客する手法です。具体的には、金曜日に広告(チラシ等)を打ち、『金・土・日・月の4日間だけ』の期間限定セールを開催するといったものです。

ハイロー戦略からEDLP戦略へ転換

このハイロー戦略をやめ、“原点回帰”ともいえる「EDLP戦略」へと転換します。「EDLP」とは、Every Day Low Priceの頭文字を取ったもので、『毎日安い』価格で商品を提供するといった至ってシンプルな戦略です。柳井会長曰く「週末特価でやるよりも毎日低価格を維持した方が顧客から信頼される」。

この選択が正解だったのか否かは、現時点では誰も分かりません。ただ一つ言えるのは、“単純な値下げ”ほど悪手はないということです。

“値下げ”回避で好調なライバル

好調なライバル企業の動向をみてみましょう。

アダストリア

グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファームなどを展開する同社。『商品改革』を進めたことで値引きを回避し、前期は6年前の過去最高益までV字回復。

ライトオン

『売りたい物』を明確にした攻めの商品戦略で、中間期の既存店売上高14%増。

しまむら

高品質のプライベートブランドのパンツ、1,000円値上げも110万本売り切り。2期連続の減益からV字回復し、営業利益が399億円(前期比8.4%増)。来期(2017年2月期)には、過去最高益となる462億円(同15.8%増)を見込む。

商品戦略で値下げを回避

ご覧のとおり、“値上げ”はあっても“値下げ”した会社はないのです。いずれの会社も“単純な値下げ”を極力回避し、顧客ニーズを捉えた素早い商品展開を軸とした戦略をとっています。ユニクロにとって、この“素早い商品展開”は非常に対処し難い部分でしょう。まさにスケールデメリットです。

国内において“単純な値下げ”に舵を取ったユニクロ。柳井会長の『プライスリーダーは本来われわれだ。それを取り戻していく』といった言葉。
“安さ”に執着・固執するだけでは、更なる成長は見込めません。まずはそこから離れることが、回復・成長路線への第一歩なのかも知れません。

 

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