経営者・組織のビジョンの共有という観点から考える「副業」(Vol.267)


コーポレート・アドバイザーズがお届けする「中村 亨の【ビジネスEYE】」です。

「ロート製薬、副業制度を導入 4月から開始」(日本経済新聞電子版 2月24日))

従来の日本の企業文化では“善し”とされてこなかった「副業」。終身雇用・年功序列の維持が困難となるなか、企業・従業員を取り巻く雇用環境は変貌を遂げていくことになりそうです。本日のメルマガでは「副業」について考えてみたいと思います。

終身雇用の崩壊

従来の日本の企業文化では、終身雇用制度の庇護のもと「専業であって然るべき」との考え方が主流でした。そのため、多くの民間企業が就業規則で「兼業・副業」を禁止としていました。具体的な禁止の理由は様々ですが、総括すると次のようにまとめられます。

1.副業に注力することで、本業に支障がでる
2.副業で不祥事が起きた場合、本業の会社の信頼問題に発展する可能性がある
3.競合他社への情報漏えいやノウハウの流出が懸念される

この考えに一石を投じたのが、2007年の世界金融危機でした。

経済の低迷による例外措置としての副業

金融危機の煽りを受けて日本経済も低迷。終身雇用や年功序列の維持が困難となり、望むと望まざるに拘らず、企業は「雇用」を見直すことが求められました。当時の製造業は特に深刻な業績不振に陥っており、工場の操業停止や生産調整が連日行われているような状況でした。もちろん、工場が稼働しなければ工員の賃金が減少していきます。

富士通や日産は、この賃金減少分を補填するために例外措置として副業を認めました。大手企業が副業を認めるケースは珍しく、今後この流れが産業界全体に広がるのでは?との声もよく聞かれました。

『平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書』

あれから約9年の月日が流れましたが、現状はどのようになっているのでしょうか。『平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書』(リクルートキャリア)によると、調査実施企業(4,513社)のうち、兼業容認とした企業は全体のわずか3.8%。兼業を推進する企業もゼロ、といった結果も得られています。

兼業容認のメリットは?

「日本人はリスクを取らない」と言われますが、まさにこの言葉を体現していますね。ただ、欧米諸国に倣い、リスクを取りに行っている企業も少なからず存在しています。では、リスクを取りに行った企業の目的は一体何でしょうか。

「ビジネスチャンスの創出」と「従業員の育成・成長の促進」、そして「人手不足解消」に集約されると思います。

・副業で得た知識・ノウハウが本業へ還元される
・起業により経営感覚が養われ、本業での事業推進がスムーズになる
・経験豊富なスペシャリストを迎え易い環境ができる

業種・職務内容によってはこの限りではありませんが、多くの企業で業務改善、人手不足解消などの恩恵が見込めそうです。

ビジョンの共有

女性の活躍、多様な働き方(ダイバージェンス)、ワークライフバランス。これらのキーワードが重視されるようになった昨今、企業は新しくかつ魅力的な雇用形態を模索し、提供していくことが必要となります。また、新しい制度を導入するには、相応のリスクを取る覚悟が求められます。

特に兼業・副業となれば、これまで危惧してきた情報漏えいなどの問題が重く圧し掛かってきます。先のロート製薬では、勤続3年以上の正社員に限定し、人事部と経営陣との面談を実施することでリスク度合を下げています。

兼業・副業はあくまで一個人としての活動となりますが、会社(組織)に所属している以上、社の代表であるという自覚を持たせることが必要です。そのためにも、経営者・組織のビジョンを従業員にいかに浸透させ、共有できるかがポイントになるでしょう。

 

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