東京ディズニーリゾートを例に「値上げ」と「顧客満足度」について考えます(Vol.266)


今年2月、東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドが、入園料の値上げを発表しました。これにより、実質3年連続で値上げをしたことになります。

値上げにも係わらずTDRは安定した入園者数を見込んでいますが、国内最大規模の消費者調査「日本版顧客満足度指数」(サービス産業生産性協議会)によると、TDRの顧客満足度の低下が著しいようです。2014年には2位でしたが、2015年には11位にまで転落しています。

そこで、本日のメルマガでは「値上げ」について考えてみたいと思います。

値上げは誰のため?

東京ディズニーランドは、開園(1983年)からこれまでに11回の値上げを実施してきました(今回の値上げを含む)。値上げの主な理由としては、消費増税の転嫁や新アトラクションの建設などが挙げられます。一部には、コンジェスチョン・チャージ(混雑課金)といった意味合いがあるのかもしれません。

もちろん、TDRとしても、値上げをしないために企業努力をしたとは思いますが、それにも限界はあります。やはり、サービスのクオリティを維持するためには、一定の値上げは必須なのでしょう。

一部では「値上げ=悪」とする声も聞かれますが、「値上げ」自体が「悪」ということは決してありません。サービスを継続して提供することは、即ち、お客様のためだからです。

TDRの問題点

これまで幾度も値上げを実施してきたTDRですが、顧客満足度は常に上位に位置していました。来園者数も2014年には6億人を突破しています。そんな優等生だったTDRの顧客満足度が低下した理由は何でしょうか。想定される原因として、下記の3つが思い浮かびます。

1.新アトラクションの不人気
2.混雑
3.サービスの低下

まず、新アトラクションですが、伝え聞くところでは、ディズニー映画を題材とした新アトラクションはいずれも好評で、話題性・集客力とも抜群。新アトラクションが不人気ということはなさそうです。

次に混雑。2015年に入場規制がかかったのが約20回程度。なかなかの頻度ではありますが、例年とほとんど変わりません。入場できた場合でも、アトラクション待ちでほとんどの時間を費やすことになります。ただ、「TDRは常に混雑している」との認識があるせいか、これを理由に満足度が急降下するとは考え難いです。また、ファストパスを導入するなど、一定の企業努力も垣間見えます。

人材流出によりサービスクオリティ低下

最後にサービスの低下。実はこれが一番の問題なのです。以前メルマガのテーマに取り上げた「マクドナルドHD」同様、育成した人財の流出が止まらないのです。特に遇面(時給・激務)の不満から、ベテランのアルバイトの離職率が高くなっており、サービスのクオリティ低下が著しい状態にあるのです。

TDRとしても歯止めをかけるべく、昨年11月に一部改善策(時給アップ)を実施しましたが、その恩恵に預かったのは大勢のアルバイトの中のごく一握りだったようです。結果として流出は止まらず、その穴埋めとして学生のアルバイトを積極的に採用しましたが、短期間で育成できるはずもなく…。3年連続で値上げしてもキャストの給与には反映していなかったようです。

顧客満足度の向上なくして値上げなし

かつてはTDRの「キャスト(従業員)」になることがステータスとされた時代もありましたが、それはすでに過去のことなのかも知れません。「ディズニー」のブランドに胡坐をかき、一番のファンであるキャスト(従業員)に目を向けなかったツケが回ってきたと言えるでしょう。この問題を後回しにすれば、マクドナルドHDと同じ道を辿ることになります。

TDRはスタッフの育成を最重要課題とし、早急にサービスのクオリティを高めることが求められます。そのためには、一番のファンある「キャスト」が胸を張って働ける環境を整備することが必要です。「キャスト」という、一番身近にいるファンに愛されないのであれば、どんなによい手を打ったとしても、未来はないのかもしれませんね。

 

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