「相続税」の歴史と世界の状況(Vol.256)


2015年も残り3週間を切りました。今年は、1月から相続税の最高税率が50%から55%に引き上げられ、非課税枠の基礎控除が4割縮小したことで課税対象も広がった影響もあり、多くのお客様から「相続税」に関するご相談を頂きました。

また、年末年始、ご家族で集まった際に、相続対策についてお話される予定の方も多くいらっしゃるかと思います。このように身近になりつつある「相続税」ですが、日本では、欧州の制度にならって誕生してから「110年」と古い歴史を持ちます。本日のビジネスEYEでは、「相続税」について、その歴史を振り返りつつ、世界の状況を俯瞰してみたいと思います。

世界の相続税を俯瞰してみると?

相続税、実は110年の歴史をもつ

相続税は1905年(明治38年)4月、前年に始まった日露戦争の戦費調達を目的に導入されました。当時の大蔵省主税局は、酒税や所得税、地租(固定資産税)と相次ぐ増税を行いました。それでも足りず、欧米諸国の租税制度を調査をしたところ、多くの国で「相続税が恒久的な税制として、古くから採用されている」ことがわかり、それにならって導入した、といわれているそうです。(参考:2005.4 税大ジャーナル1号 相続税100年の軌跡)

一方、海外では相続税を廃止した国もあります。1970年代にカナダとオーストラリア、1992年にニュージーランド、2004年にはスウェーデンも相続税を廃止しました。また、そもそも相続税がない国も多くあります。中国や香港のほか、シンガポール、マレーシア、ベトナムなどの東南アジア諸国には、相続税はありません。

世界と比較しても高い「日本の相続税」

相続税率は国によって様々で、日本の最高税率は55%と世界でも高水準。課税最低限の税率も国によって異なります。なお、米国は日本円にして6億円超の超富裕層だけが相続税の対象となります。

最高税率・最低税率

日本    55% ・ 10%
フランス  45% ・  5%
英国    40% ・ 40%
米国    39% ・  8%
ドイツ   30% ・  7%

課税最低限 ・配偶者の免税

日本   3,600万円 ・ 遺産額の半分
フランス 1,350万円 ・ あり
英国   6,077万円 ・ あり
米国  6億5,160万円 ・ 米国市民の配偶者
ドイツ  5,400万円 ・ なし

*日本は法定相続人が1人、フランスは尊属及び子、ドイツは子の場合
*1ドル=120円、1ポンド=187円、1ユーロ=135円で計算(参考:2015.7.29 日本経済新聞:世界の相続税事情は?「増税ニッポン」と比較)

富裕層を中心に、相続税のない国へ資産・人の移動が進む?

さて、ここで先週ご紹介したファイザーの総額1,600億ドルという巨額M&Aの事例を思い出してみましょう。米製薬大手のファイザーは、アラガンとのM&Aにより、本社を、法人税率が35%と主要国で最も高い水準にある米国から12.5%のアイルランドに置くことで、年約20億ドルの節税効果があるとされ、米国では、税逃れとの批判を受けています。

企業と同様、富裕層も、相続税がない国へ移動が進むのでは?と考える方もいるかもしれません。しかしながら、この海外移住による相続税の節税については、自国への愛着のほか、税制にまつわる諸事情により、それほど加速はしないでしょう。

前回は法人税、今回は相続税について、日本と海外諸国との比較を行いました。税制はその国固有の制度であはあるものの、海外諸国の税制の動きとの深く関連しています。ぜひ、皆さんも海外諸国の税制の動きをウォッチしてみてください。

 

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