ファイザーの巨額M&Aから考える、法人税がビジネスに与える影響について(Vol.255)


11月23日、米製薬大手ファイザーは総額1,600億ドル(約19兆7,000億円)という巨額M&Aを発表しました。このM&Aの目的として、相次ぐ主力品の特許切れ、後発医薬品メーカーとの競争激化のなかで、局面の打開を図ることが挙げられますが、米国では、形式上、本社を法人税率の低いアイルランドに移すことによる租税回避ではないか、と論議を呼んでいます。その背景にあるのは、各国の法人税率のギャップ。

本日のビジネスEYEでは、ファイザー巨額M&Aから、法人税がビジネスに与える影響について考えてみたいと思います。

ファイザー巨額M&Aから考える、法人税がビジネスに与える影響

米国では税逃れであると波紋が広がる

11月23日、米製薬大手ファイザーと同業のアラガンは、総額1,600億ドル(約19兆7,000億円)という巨額のM&Aを発表しました。両社の1年間の売上高はおよそ7兆4,000億円を超え、M&Aが実現すれば製薬業界で世界最大の規模となります。両社は株式交換方式で合併し、規模の小さいアラガンの下で事業統合する形を取ります。

米国は連邦法人税率が35%と主要国で最も高い水準にありますが、アイルランドは12.5%と低く、本社をアイルランドに置くことで、年約20億ドルの節税効果があるとされます。(参考:11/25日本経済新聞)

増加する「タックス・インバージョン」(Tax Inversion: 節税のための本社移転)

近年、タックス・インバージョンを目的としたM&Aが立て続けに発表されています。(参考:11/23 Updated Bloomberg QuickTake 「Tax Inversion」)

〔米国企業 / 買収対象の海外企業 / 本拠地移転先〕

2015年
Steris / Synergy Health/イギリス
Wright Medical / Tornier /オランダ
Medtronic  / Covidien /アイルランド

-2014年
Burger King / Tim Hortons /カナダ
Horizon Pharma / Vidara Therapeutics/アイルランド
Endo International/ Paladin Labs  /アイルランド

日本でもなじみのあるBurger King(バーガーキング)の事例もありますが、ヘルスケア分野の企業が大半を占めているようです。

貧乏くじを引かされるのは、米国の納税者?

ヒラリー・クリントン氏が「貧乏くじを引かされるのは、米国の納税者」とコメントしたように、ファイザーのような米国企業の動きは、一部では“非愛国的”行動であるとの見方もあります。しかし、民間企業が現行の枠組みのなかでが節税行為を取るのは、当然といえば当然でしょう。そのため、規制を強めるだけではこれを抑制することはできません。果たして、加速するタックス・インバージョンの動きは、米国の法人税減税を促すのでしょうか?

国・地方合わせた法人税率の国際比較」

米国 :40.75%(カリフォルニア州)
日本 :32.11%(標準税率・2015年度)
フランス :33.33%
ドイツ :29.66%(全ドイツ平均)
中国 :25%
イギリス :20%
シンガポール:17%
アイルランド:12.5%
(参考:財務省資料他、2015年4月現在、地方税等の調整含む)

米国と同様、世界的に見て法人税率が高い日本でも、法人税引き下げ議論は活発化しています。一部報道によると、来年度の税制改正で、法人税の実効税率を29.97%まで引き下げる方向で最終調整に入ったようです。「2016年度税制改正大綱」が来週中に発表されると思いますので、次号以降で、ポイントを解説していきます。

 

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