「税務調査は雑談から始まっている。」調査官がチェックするポイント(Vol.248)


「税務調査は雑談から始まっている。」経営者の方は一度は聞いたことのあるフレーズではないでしょうか。税務調査は基本的に帳簿のチェックを軸に進められますが、調査官が本当に知りたいのは意外にも『帳簿外』のことなのです。

最近では雑談なしに帳簿のチェックに取り掛かる調査官もいますが、老獪なベテラン調査官は一味違い、何気ない雑談の中から調査ポイントを手繰り寄せます。”挨拶の延長の雑談”などと高を括っていると、後で苦労するかも知れませんよ。今回は、前回挙げた5つのフレーズを例に、調査官がチェックするポイントなどを紹介していきます。

「雑談」は「聴き取り調査」

【ケーススタディ1:食事について】

調査官「食事会は多いですか?」
社 長「最近はそれほどでもないですかね。」
調査官「月に4回くらいでしょうか?」
社 長「最近はもっと少ないですよ。」

ここでのポイントは「食事会の回数」。社長は「それほど行かない」と回答しましたが、領収証等を照合したところ、飲食店の領収書が相当量出てきました。他意はなくとも、このような事実誤認が発覚すると、「他人の領収書を集めて使用しているのではないか?」「架空の領収書を作成したのでは?」などと調査官が疑念を抱いてしまうことも考えられます。

【ケーススタディ2:ゴルフについて】

調査官「ゴルフはどのくらいの頻度で行かれますか?」
社 長「付き合い程度で月2〜3回ですね。」
調査官「プライベートではどなたと?」
社 長「いろいろです。最近は懇意の社長仲間や友人などが多いですね。」

ここでは「誰とラウンドしたか」がポイントとなります。あくまで必要経費となるのは、業務上の交際費だけです。プライベートな経費は『役員賞与』とみなされる恐れがあります。業務関連の付き合いで留めておければよかったのですが、「友人」のキーワードが出てしまったため、調査官はプライベートのゴルフ代も経費としたのではないか?と邪推してしまう可能性があります。

【ケーススタディ3:従業員について】

調査官「奥様も従業員ですよね。今日はいらっしゃらないのですか?」
社 長「今日はたまたま休みです」
調査官「奥様の職務内容を教えてもらえますか?」
社 長「主に社内事務で、経理回り全般を任せています。」

ここでは親族従業員の「勤務実態」と「給与水準」に着目しています。本当に勤務しているのか?職務に対して高額すぎる給与が支払われていないか?
特に親族従業員については、税務上も厳しく規程されてますので問われることが多いようです。

【ケーススタディ4:買い物について】

調査官「最近、不動産・車などの大きな買い物をされましたか?」
社 長「社用車を買いました。」
調査官「ちなみに車種は?」
社 長「ポルシェです。」

高額資産は、特に厳しいチェックが入る項目と言えます。高級車であれば使用目的と使用者などが突っ込まれるケースが多いです。上記の場合であれば、「そもそも高級車である意味はあるのか?」や「私用で流用しているのでは?」などといった面倒な質問が予想されます。

【ケーススタディ5:外注について】

調査官「外注が多いとスケジュール管理やら大変ですよね?」
社 長「どうしても外注頼みになってしまうので。まぁ慣れてしまえば平気です。」
調査官「外注先の管理表をみせてください。」

ここでのチェックは「外注費の架空計上」と「外注費と人件費の判断」です。架空計上はそもそもアウトなので論外としますが、「外注費と人件費の判断」は、よく争点となります。

これは外注費の特徴でもあるのですが、「消費税が減る」・「社会保険料が不要」という特徴があるため、通常の人件費(給与)として支払うよりも、得になってしますパターンが存在するためです。ゆえに、人件費と外注費の見極めは非常にシビアであり、議論が法廷の場へ移ることもしばし見受けられます。

「雑談」という名の「聴き取り調査」

老獪な調査官の話術に翻弄され、時には回答に詰まることもあるかも知れません。実際、多くの方が「即答しないと疑念を持たれる!」と考えてしまい、辻褄の合わない回答をしてしまいがちです。この場合は、焦らずに顧問税理士に相談するか、後日回答する旨を伝えればよいのです。落ち着いて対応するためにも、日頃から顧問税理士との信頼関係を構築しておくことが肝要でしょう。

次回は、税務調査のペナルティと調査終了までの流れについてです。過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税など難しい言葉が並びますが、知っておいて損はありません。是非ご一読ください。

 

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