3年連続で市場規模が縮小しているマーケット「二刀流の経営」について(Vol.240)


3年連続で市場規模が縮小しているマーケットがあります。本日のメルマガでは、この限られた需要の中で熾烈な争いを繰り広げている企業の動向について注目したいと思います。

ビール類の市場規模縮小

若者のビール離れや少子高齢化などに歯止めがかけられず、ビール類の市場縮小は止まる気配がありません。年間1億ケース以上を売り上げ、
国内ビール消費量の約半分を占めるお化けブランド『アサヒ スーパードライ』も苦戦を強いられているようです。

アサヒグループ全体の利益のうち、実に約95%をアサヒビールが稼ぎ出しています。そのアサヒビールの売上高の約6割以上は、ビールであり、ほどんどがスーパードライ。つまり、スーパードライはアサヒグループの大黒柱的な存在です。その大黒柱の今年上期の販売数量は、前年同期比97.4%。ビール類市場全体の縮小幅が前年比99.4%ですので、これよりも落ち込み幅が大きくなっています。(東洋経済オンライン 7月20日より)

アサヒの不振はライバルの猛攻

この“お化けブランド”が不振に陥った最大の理由は、ビール業界2位・キリンの猛攻があると言われています。キリングループは今年3月、5年間HDの社長を務めた三宅占二氏(現会長)が退任し、事業会社であるキリンビール社長・磯崎功典氏が、HD社長に就任しました。キリン自体も市場縮小の煽りを受け、2014年までの5年間、暗黒時代と揶揄される状況に落ち込んでいました。ビールの販売数量が5年連続で前年を下回り、時価総額でアサヒグループ、売上高でサントリーに抜かれるなど、様々な苦難がありました。

市場が伸びずシェアを奪いあうだけ

危機感を強めた磯崎新社長は会見のなかで、「ビール市場は需要が伸びないゼロサムだから、他社の戦略は当然スーパードライからいかにシェアを奪うかになる」とし、これまでの「利益重視」から「販売数量重視」の方針転換を決断しました。この方針転換が功を奏し、結果として2015年上半期ビール類出荷量でキリンは業界で唯一プラスとなる独り勝ち状態になりました。

ゼロサム・ゲームに必要な「二刀流の経営」

『ゼロサム』とは、ある市場参加者の得点(利益)と他の市場参加者の失点(損失)の総和がゼロになるマーケットを、経済学の用語で「ゼロサム・ゲーム」の状態にあると言います。このゼロサム・ゲームは、上記のビール業界に限らず、国内携帯キャリアをはじめ、需要が伸びない(頭打ちした)市場で起こっています。

このゲームに勝つためには、ライバルの戦略を睨みながら「自社のシェアをしっかり守る」ことと、ゼロサムの状態を抜け出すための「新たなマーケットを模索する」ことが肝要となります。いわゆる「二刀流の経営」です。

先のキリンでは、シェア死守のための「販売量重視」の方針転換を行うと共に、新たなマーケットとして、アサヒの取引先であった「大手回転寿司チェーン」との取引を獲得しました。こうした「二刀流の経営」は全ての事業で求められる資質なのかもしれません。

 

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