今月23日、日本経済新聞社は、英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを買収することで同社の親会社である英ピアソンと合意したと公表しました。日経新聞社は、8億4,400万ポンド(約1,600億円)でFTの全株式を取得しますが、一部では、この買収金額が高すぎるとの声が上がっています。そこで本日のメルマガでは、買収の際の企業価値の算定の仕方について考えてみたいと思います。
企業価値の算定方法
今回の日経新聞社によるFTの買収金額が割高であると言われていますが、理論的な企業価値の計算方法としては、主に次の3つがあります。
1.ネットアセット・アプローチ
貸借対照表に基づいて、資産・負債を時価評価して企業価値等を算定する方法。実務では、単なる会計上の純資産額(簿価)ではなく、貸借対照表の資産と負債に帳簿外の資産と負債を加え、時価評価し直した上で算出した純資産に基づき、企業価値を評価する。なお、M&Aの場合には、更に将来の収益能力をのれん代として加算。
2.マーケット・アプローチ
評価対象企業と事業内容や規模等が類似している上場企業を選択し、類似した企業の株価と財務数値の比率をもとに企業価値を評価する方法。具体的には、利益と株価の関係をベースに評価するPER(株価収益率)をもとにした方法が代表的。
3.インカム・アプローチ
企業が将来稼ぐと見込まれるキャッシュフローを予測し、それに金利やリスクを考慮して評価時点の現在価値に割り引き、それを合計したものを企業価値とするDCF法(Discounted Cash Flow)が代表的。
上記の3つのアプローチのうち、実務的には「1と2」や「2と3」を組み合わせて企業価値のおおまかな範囲を決め、それを目安に買収金額の交渉を行うことになります。
FTの買収金額は過大な「のれん」か?
今回の日経新聞社によるFTの買収金額を見ると、FTの調整後営業利益の35倍の金額を支払うことになります。他の欧州系メディアの株価は、調整後営業利益の10~15倍で取引され、平均は12倍ということを考えると、かなりのプレミアムを乗せた買収金額であることが伺えます。(ロイター 7月24日より)
今回の買収金額が割高だったか否かは、今後の業績を見て判断されますが、気になるのは各メディアで報じられている買収交渉最後「10分間の逆転劇」。買収合意が正式に発表される1時間前でも、買収交渉のライバルだったアクセル・シュプリンガー社が優勢となっていたが、日経新聞社が土壇場になって同社の提示額を約1億ポンド上回る額を示し、形勢は逆転。(ブルームバーグ 7月27日)
仮に日本基準を適用している上場会社であれば、今回の買収プレミアムは、会計上「のれん」として計上され、一定の期間に渡って毎期償却計算が行われ費用化されます。ゆえに、あまりにも過大なのれんは、その後の企業経営にボディーブローのような影響を与えることになります。
東芝のバランスシートの例
例えば、利益の水増し問題で話題となっている東芝。同社のバランスシート(2014年3月期)には、買収した原子力部門などののれん代として約5,800億円が計上されています。自己資本が約1兆6,000億円なので、買収した事業の収益が悪化し、のれんが全額減損処理となった場合、自己資本比率は20%を割り、不適切会計の影響も相まって今後の資金調達のハードルが一気に上がることが予想されます。
買収の際には、適正な価格と自社の基礎体力を正確に把握しておくことが肝要となるでしょう。
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