中村亨の「ビジネスEYE」です。
令和4年度の税制改正において、法人版事業承継税制に係る特例承継計画の提出期限が、令和6年3月31日まで1年間延長されることが決まりました。
1年延長されたことで、事業承継税制を利用するか否か、検討する時間ができたことになります。
この特例措置のメリットや、そもそも適用したほうが自社にとって有利になるのかなど、情報を整理する必要があるのではないでしょうか。
そこで今回のビジネスEYEでは、事業承継税制について制度の概要と、提出期限の到来前に必ず押さえたいポイントについてお話したいと思います。
特例事業承継税制とは?
事業承継税制とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が、非上場株式を相続または贈与で引き継いだときに、一定の要件を満たすことにより、株式の贈与や相続に係る税金を繰り延べる(納税の猶予を受ける)ことができる制度のことです。
一般措置としての事業承継税制自体は、平成21年に創設されたものです。
しかし、納税額の全額が猶予されないことや、5年間に渡る雇用維持の要件などもあり、使い勝手の悪い制度でした。
そこで、平成30年1月1日から約10年間の期限付きで、特例措置が創設され抜本的な拡充がなされました。
一般措置では、下記の制約があるため制度が普及されませんでしたが、改正により特例措置では、それらの制限がクリアになったことで使いやすくなりました。
【一般措置】
- 納税の猶予や免除の対象となる株式数は発行済株式数の最大3分の2まで
- 納税が猶予される金額は相続の場合80%まで(贈与の場合は100%)
- 承継後5年間は平均で8割雇用の維持が必須(できない場合は猶予打ち切り)
- 経営悪化により自主廃業や売却をする場合は、承継時の株価を基に税金を計算
【特例措置】
- 全株式が納税の猶予や免除の対象となる
- 納税が猶予される金額が相続でも100%になる
- 承継後5年間で平均8割の雇用を下回った場合でも、下回った理由等を記載した報告書を提出して、確認を受けることで猶予は継続される
- 経営悪化により自主廃業や売却をする場合、廃業・売却時の評価額を基に税金を計算できる
改正によって税金面で大きく優遇を受けられるようになるとともに、後継者の引継ぎ後の経営に対する不安や、万が一の時の税負担も軽減されるようになり、事業承継に悩む中小企業の経営者にとって非常に魅力ある制度になりました。
ただし、この特例措置は10年間の期限付きであり、また、制度を利用するには、期限内に特例承認計画の提出が必要になります。
提出期限の到来前に必ず押さえたいポイント
今年の税制改正にて、特例承認計画の提出期限が当初の令和5年3月31日から、令和6年3月31日まで1年間延長されることが決まりました。
必ず押さえておきたいポイントは、
「相続が発生した場合も同様に特例承継計画の提出が必要」
ということです。
贈与による事業承継税制の活用を検討する場合には、計画的に株式の贈与を行いますので、特例承継計画の提出がないまま贈与を行う可能性はありませんが、予期せぬ相続については違います。
万が一、特例承認計画の提出をしないまま、令和6年3月31日の提出期限が過ぎ、その後、相続が発生してしまった場合には、特例措置による事業承継税制を適用することはできないのです。
もちろん、一般の事業承継税制を適用することはできますが、納税猶予の対象となる株式数は、発行済株式数の最大3分の2までです。
税額猶予は80%までしか適用できないので、後継者に一部税負担が発生してしまいます。
また、5年間に渡る雇用維持の厳しい要件や、経営悪化による自主廃業や売却時には株価が重くのしかかるなど、後継者の相続後の経営不安を払拭できない要素も存在します。
特例承継計画を提出したからといって、期間内に必ず贈与を行う必要はありません。
しかし、特例承継計画の提出さえあれば、特例措置期間内に万が一のことが起きても、相続に関して、特例事業承継税制が適用することができます。
今回の新型コロナウイルス感染症のように、いつ経営者ご本人の健康リスクが脅かされるのか、誰にも予想ができません。
最悪の事態を想定して、特例承継計画を提出するだけでも、検討する余地はあるのではないでしょうか。
事業承継税制は、適用条件や納税猶予の取り消し事由など、押さえるべきポイントが多数あり、ここでお話ししたことはほんの一部です。
特に事業承継税制自体は課税の繰り延べ的な側面が強く、納税猶予の取り消し事由に該当してしまった場合、猶予されていた税金について納付しなければなりません。
後継者に大きな税負担が発生する恐れもあり、注意が必要です。
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