八芳園のV字回復(1)(Vol.331)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

東京・白金台に15,000坪の由緒ある日本庭園を持ち、結婚式場等を運営する八芳園。
時代の変化を受けて、年間挙式披露宴組数がピーク時の3分の1にまで落ち込むなど、経営危機に陥っていましたが、見事V字回復を成し遂げました。改革の軌跡の裏側には、「生涯顧客化」「値上げ」などのキーワードが浮かび上がります。

今回のビジネスEYEは、八芳園のV字回復(1)をお届けします。

結婚披露宴の組数がピーク時の3分の1に

昭和25年に創業した八芳園は、都内とは思えない風光明媚な日本庭園を武器にかつては年間2,800件ほどの挙式披露宴組数を誇る式場でした。しかしながら、ハウスウェディングなど結婚式場の多様化や、入籍はするけれど挙式をしないというカップルの増加もあり、結婚披露宴の組数が平成15年前後にはピーク時の約3分の1の年間1,000組程にまで落ち込んでいました。

そのような局面にあった八芳園を変えるべく、当時、婚礼システム販売会社で働いていた井上義則氏(現 八芳園取締役専務 総支配人)が入社し、事業の立て直しに携わります。

組織の意識改革

八芳園は歴史を重ねてきた「ブランド力」や立地の良さもあり、何もしなくても一定数のお客様を獲得することができていました。そのため、婚礼組数が激減していても従業員に危機感はなく、お客様のニーズを汲み取らない旧態依然とした組織に井上氏の目には映ったようです。

例えば、お客様が下見にきた際には、式場には椅子が積み上げられたままの状態を平然と見せていました。しかしそれではイメージが膨らみません。井上氏は、テーブルも椅子も綺麗に並べてクロスをかけて、結婚式当日に近いイメージをお客様に見ていただけるように改革を進めました。

お客様の気持ちに寄り添い、お客様に選んでもらえる式場へ変革させるために、館内を1人で走り回る日々が続きました。そうした率先垂範の行動を目の当りにしたことで、次第に井上氏の想いを理解してくれる従業員が現れ、改革の歯車が回り始めます。

また、抜擢人事を積極的に行い、やる気のある若手をサービスの責任者に据えることで、サービスの現場にも意識の変化を浸透させるようにしました。改革の流れが本流になってくると、これまで改革に賛同していなかった従業員も協力的な姿勢へと変化が見られました。社員の意識が変わったことで、挙式披露宴数も順調に増えていきました。

「生涯顧客化」 でV字回復

結婚式を取り巻くスタイルの変化

住友生命グループのメディケア生命が実施した2016年2月18日~2月22日に実施した「イマドキ女子と結婚に関するアンケート2016」によると、最近の傾向は下記のようになります。

・結婚式の催し「挙式+披露宴」が49.8%、「親族の食事会のみ」が13.8%、「いずれもなし」が23.0%
・結婚式の一部や全てを省略する、様々な”省略婚”を希望する方は38.7%
・入籍のみで結婚式を行わないスタイルの「ナシ婚」を希望する方は21.0%
・「結納」実施率は18.0%、「正式結納」の実施率は2.6%
・2次会を「行う派」は38.2%、ハネムーンを「行う派」は58.4%
※「省略婚」を希望する理由として「費用を新生活に充てたいから」が最多であり、「大勢に囲まれるイベントが苦手」の声も挙がっています。

結婚式のスタイルは、「挙式+披露宴」が主流ではあるものの「ナシ婚」など多様化が進んでいます。約4人に1人は、「挙式も披露宴もナシ」を希望すると答えていることから、結婚式場を取り巻く環境はかつてなく厳しいものなのでしょう。結婚式場の存在意義が問われています。

市場の変化に自らも変化

こうした昨今の環境の変化もあり、井上氏は「生涯顧客化」を進めました。八芳園で「結婚式」を挙げたお客様に対して「子供の七五三」や「銀婚式」「金婚式」などの、ライフイベントのサポート提案の取り組みを始めたのです。

井上氏は、結婚式だけでなく「生涯顧客化」という新しい概念を結婚式場に取り込むことで、厳しさを増すブライダル業界に変革を促そうとしました。こうした試みが功を奏し、業績はV字回復を果たすことができたのです。(『致知』2017年3月号/インタビューを参考)

少子化、核家族化の進行に伴い、大規模な挙式・披露宴を行うカップルが減るのは仕方のないことなのかもしれません。こうした環境の変化にいかにして適応するか、結婚式場としては新しい戦略を打ち出すことが必要になるのでしょう。

次回のビジネスEYEでは、八芳園の「値上げ」「ビジョンとミッション」についてお伝えします。

 

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