スター精密の経営戦略(Vol.335)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

「規模を追わず身の丈を考えろ」
スター精密の会長である佐藤 肇氏が、創業者であり父である誠一氏から叩き込まれた言葉です。

1950年、スター精密は「精密部品加工の事業」をスタートさせました。どんな不況にも耐えられる盤石な企業体質作りを経営戦略の中心に据え、現在では、東証一部上場の世界的メーカーへと発展させました。

今回のビジネスEYEでは、スター精密の経営戦略についてお送りします。

スター精密の考える「経営者の使命」

経営者は「従業員の生活を守る」使命がある

1950年、創業者・誠一氏は、静岡でスター精密の前身となるスター製作所を設立しました。資源に乏しい日本において、「最小の材料で最大の効果をあげる事業」を標榜し、1962年には海外へと販路を広げました。製品もスイス型自動旋盤やプリンターなど、時代のニーズに即したものを提供し、活躍の領域を広げます。

誠一氏の人柄を示す逸話があります。当時社長であった誠一氏は、「経営者だけがいい暮らしをするのはおかしい」という持論があり、『従業員の8割が家を購入するまでは、自分は持ち家に住まない』と決めていたそうです。従業員の生活を守ることが、経営者の使命だと心に誓っていたそうです。

経営者は「財務」を勉強すべし

息子である肇氏は、大学卒業後の1975年にスター精密に入社しました。入社後は徹底的に財務面での教育受けることになります。上場企業の有価証券報告書についてのレポートを提出する度に数値の意味を教え込まれ、財務の重要性を知るようになりました。従業員を路頭に迷わせないためにも、「企業トップは数字に強くなる必要がある」との誠一氏の方針によるものでした。

誠一氏の経営戦略についての教えは、次の2点に要約されます。
「絶対に大企業のマネをするな」
「規模を追わず身の丈を考えろ」

収益安定の秘訣とは

意図的に売上を落として在庫を圧縮

肇氏が社長に就任したのは、リーマン・ショックの翌年の2009年。主力の工作機械の受注が激減するなど、甚大な影響があらわれ、社長としての手腕が試されました。

危機的な局面において肇氏は「売上を落とせ」と社内に指示し、余分な在庫を減らすことに注力しました。

工作機械事業は、在庫を極限まで減らした結果、2008年2月期に740億円あった売上高は2年間で290億円に、最終赤字で85億円になりました。しかし、固定費を大きく減らした成果が発揮され、翌期には黒字回復を果たします。

通常、経営者は「売上」を求めてしまいがちです。ただ、売上のみを追求してしまうと、相手企業の要求に従い価格を下げざるを得ない場面が出てきます。
一旦価格を下げてしまうと、価格を戻す、つまり値上げするのは非常に難しくなります。スター精密はこうした事態を回避できたからこそ、リーマン・ショックの影響を乗り越え、安定した収益性に磨きをかけれたのかもしれません。

ボーナスは超一流

スター精密は、最低でも年間4か月のボーナスを保証しています。

2016年夏のボーナスランキングでは、スター精密は16位にランクインしました。ちなみに15位には日産自動車、17位にはアサヒビールと名立たる企業が並んでいます。

規模において超一流企業に勝つことは不可能に近いですが、ボーナスに関しては経営的要素が大きいため、従業員を大切にする意味でも、一流企業に引けをとらない額を支給しているそうです。

売上高や利益は経営の目的ではなく、あくまで手段であると、肇氏は言います。一番大事なことは、「いかに会社にキャッシュを残しておくか」だそうです。

早期からグローバル展開を開始

創業から12年後の1962年に、イギリス向けに初めて工作機械を輸出しましたが、当時の売上高はわずか2億円でした。早期から海外展開することは、先代経営者たちの戦略だと肇氏は指摘します。製品を世界各地で同時発売することで、設備投資にかかる投資資金の回収を早められるからです。

以来、常に「世界」を視野に入れて事業を展開しており、2017年2月期では、海外売上構成比83%、海外生産高比率75%まで高まっています。新興国の経済発展に伴い、拡大を続ける世界のマーケットで活躍できる事業体制が整えています。(『日経ビジネス』2017年4月10日/「有訓無訓」を参考)

スター精密の自己資本比率は62.8%(2017年2月期)、流動比率は362.6%と抜群の健全性を誇ります。(スター精密ホームページより)安定した収益性と世界展開が両立された事業体制を築いており、「グローバル化に成功している」との高い評価も受けています。「大企業のマネをしない」「規模を追わない」という先代からの経営戦略を遵守し、スター精密の強みがさらに磨きあげられています。

 

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