令和3年度税制改正大綱で示唆された「相続税、贈与税の一体化」ですが、早ければ2022年にも改正が入り、「生前贈与」が相続税の節税対策として有効的に使えなくなる可能性があります。
法改正に向け、今こそ検討すべき対策についてご紹介します。
これまでの「生前贈与」による節税対策
生前贈与は相続税を軽減させるひとつの手法として広く活用されてきましたが、相続税、贈与税の一体化によって「暦年課税贈与の非課税枠が廃止される」可能性があります。
贈与の控除額110万円は、贈与税の非課税枠として良く知られた金額です。
控除額内で贈与を行う場合、一度の贈与金額が少額の為、受贈者(贈与を受ける人)を増やす、あるいは中長期的に渡って贈与を行うことが一般的でした。
(例:一人あたり110万円を3人に贈与する。110万/1人×3人=計330万円贈与
一年あたり110万円を5年に渡り贈与する。110万/年×5年=計550万円贈与)
しかし、早くても2022年に改正されると仮定した場合、1回で110万円ずつ贈与していたのでは、今からでは多くの節税効果が期待できません。
控除額を超えた贈与を敢えて行う生前対策
「相続税、贈与税の一体化」に備えるために、なるべく早い期間で多くの資産を贈与しなければならないと考えた場合、贈与税の基礎控除を超えて贈与する必要がでてきます。ここからがポイントですが、贈与金額を適正に検討すれば、贈与税を支払っているにも関わらず、節税することができる可能性があるのです。
例えば、父、母、長男、長女の家族構成で、父は相続財産を1億円持っているとします。この条件で仮に父に相続が起きたとした場合、相続人である母、長男、長女の3人には、15%の相続税率で計算され全体で630万円相続税がかかります。
では、このご家庭の長男、長女、それぞれに子供が2名ずつ、計4名いたとして、相続開始前に孫4名に贈与税の控除枠を超えた生前贈与(1人310万円×4人)を行っていたとした場合はどうでしょうか。この場合、贈与を受けたお孫さんは贈与税の支払いが発生します。贈与金額310万円の場合の贈与税の計算は以下のとおりです。
【贈与税額】
310万円 - 110万円(基礎控除) = 200万円(課税価格)
200万円 × 10%(贈与税率) = 20万円(一人あたりの贈与税)
20万円 × 4人 = 80万円(4人合計の贈与税)
このように4人に生前贈与した場合、合計で80万円贈与税がかかります。
【相続税額】
では、相続税にはどのような影響を及ぼすでしょうか。対策後の相続財産の額は
1億円(遺産総額)-1,240万円(生前贈与した金額)=8,760万円
となり、その場合の相続税は以下のとおりです。
【課税遺産額】
①8,760万円-4,800万円(基礎控除)=3,960万円(課税遺産総額)
②①×1/2(母の法定相続分)=1,980万円(母の計算上の取得金額)
③①×1/4(子の法定相続分)=990万円(子の計算上の取得金額)
【各自ごとの相続税額】
④②×15%(相続税率)-50万円(控除)=247万円(計算上の母の相続税額)
⑤③×10%(相続税率)=99万円(計算上の子の相続税額)
【相続税額(総額)】
④+(⑤×2人)=445万円(相続税総額)
【有利不利判定】
A:生前贈与を行った場合
445万円(相続税総額)+80万円(生前贈与の税額)=525万円(相続+贈与の税額)
B:贈与を行わなかった場合
630万円(相続税総額)
C:節税効果
630万(B)-525万円(A)=105万円
上記の通り、贈与を行ったほうが105万円、税金が減少したことになります。今回の例では、相続税の税率は15%に対して、贈与税の税率は10%であるため、差額の5%分税額を節税することができました。このように贈与税率と相続税率の差をうまく活用することで、贈与税を支払っているにも関わらず
全体の納付税額を減らす事ができます。
今後の相続対策について
控除額内で税金を払わずに贈与を行えば一番の節税になりますが、近い将来、生前贈与での節税が封じられる可能性があることを考えると、110万円ずつの贈与では焼け石に水の可能性がありますので今こそ検討したい対策のひとつではないでしょうか。
ただし、この方法は想定される相続税の負担額や、税率の把握が非常に重要になり、安易な贈与は効果がない可能性もあります。過多に預金を贈与しすぎて、実際の相続の際に相続税の納税資金が不足しては本末転倒です。見切り発車での対策は、思うような節税効果が見込めない可能性があり、実行の前には適切な現状分析、相続税のシミュレーションが必要です。
本格的な税制改正が行われる前にご自身の財産内容に合わせた節税対策を検討してはいかがでしょうか。日本クレアス税理士法人では、相続の生前対策として
「現状分析・相続シミュレーション」サービスを提供しています。改正が迫りつつあるこの時期に、是非一度日本クレアス税理士法人へご相談ください。
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「相続税・贈与税の一体化」は様々な観点からコラムや動画で紹介しています。
今回のメルマガでは「暦年贈与の非課税枠の廃止」に焦点をあてましたが、その他「相続財産への持戻し期間の拡張」の可能性も考えられます。こちらについては「生前贈与加算」としてコラムで解説していますので、あわせてご参考ください。
●〇●コラム「生前贈与加算‐相続税と贈与税の一体化」
┗ https://creas-souzoku.com/columns/news/tax-system/c12014/
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