2018.11.01

民法の相続に関する規定(相続法)改正の影響-「預貯金の仮払い制度」の創設


遺産分割協議が終わる前でも金融機関から預貯金が引き出せる「預貯金の仮払い制度」

平成30年7月6日、民法の相続に関する規定(相続法)を改正する法案が成立しました。この法案は、約40年ぶりとなる相続法の大きな見直しとなります。

今回は、新たに創設された「預貯金の仮払い制度」についてご紹介します。遺産分割協議が終わる前でも金融機関から預貯金が引き出せるという制度であり、平成31年1月13日から施行されます。

■改正内容

今までは原則として、遺産分割協議が終了するまでは、預貯金を含む相続財産は相続人全員の共有財産であることから、遺産分割の前に、預貯金の払戻や名義変更ができず、葬儀費用の工面に困る方もいました。そこで、相続法を改正して遺産分割協議が終わる前でも、金融機関から預貯金を引き出せる2つの「仮払い制度」が創設されました。

(1)家庭裁判所で手続きする方法

家庭裁判所に遺産分割の審判または調停を申し立てたうえで、預貯金の仮払いを申し立てると、家庭裁判所の判断により他の共同相続人の利益を害さない範囲内で仮払いが認められる方法です。

(2)直接、金融機関の窓口で手続きする方法

各相続人が単独で、記入機関へ下記(ア)の金額を払戻し請求ができる方法です。ただし、下記(イ)の金額を上限とします。

(ア)相続開始時の預貯金の額 × 1/3 × 仮払いを求める相続人の法定相続分
(イ)法務省令で定められる金額(100万~150万円の見込)

■払戻しの例

下記のケースを例に、(ア)の方法で「仮払い制度」がなされた場合を考えてみたいと思います。

<例>
・父親が亡くなった。父親は銀行に600万円を貯金していた
・相続人は、妻と、長男と次男の3名

相続開始時の預貯金の額
600万円 × 1/3 = 200万円

仮払いを求める相続人が妻の場合
200万円 × 1/2 = 100万円(妻が払戻できる金額)

残された遺族に資金がない場合、父親の口座からおろした預金で葬儀などができるようになります。

■各方法のポイント

(1)家庭裁判所で手続きする方法

家庭裁判所の手続きを要するため、コストや時間がかかってしまうデメリットがあります。

しかし、必要な金額について簡単な証明ができれば、申し立て額の範囲内で仮払いを認めてくれる可能性があります。そのため、借入金の返済や相続人の生活費など、(2)の方法の上限金額以上の金額が必要な場合に適していると考えられます。

(2)直接、金融機関の窓口で手続きする方法

(1)の方法と比べて簡便的かつ短期間で払戻ができる方法です。しかし、各金融機関で100~150万円(見込)の上限が設けられる予定のため、多額の費用には適しません。そこで、比較的少額かつ緊急性が高いもの(葬儀費用など)を支払うときに活用できます。

なお、どちらの方法でも、仮払いされた預貯金は、その相続人が遺産分割(一部分割)により取得したものとみなされます。そのため、後日、遺産分割の時に実際の相続財産から控除されます。

■留意点

確かに、相続法改正により相続人の資金調達がしやすくなります。しかし、(1)家庭裁判所で手続きする方法では、相続人1人が金融機関からの借り入れ返済のためと偽り、口座残高の全てを払い戻してしまう可能性があります。その場合に、他の相続人に対しての救済方法をどうするのかが課題となります。

また、比較的時間がかからない(2)直接、金融機関の窓口で手続きする方法でも、法定相続人(数)を証明するために、相続人等の戸籍謄本を取得する必要があると予想されます。

そうすると、戸籍謄本を取得するのに、最低限の時間が必要です。そして、葬儀費用が必要な場合、通夜やご葬儀の準備で忙しく、わざわざ記入機関で手続きをする時間がないのが現状ですから、この方法を活用するのが難しくなります。

預貯金の仮払い制度は利便性が高いですが、法整備をきちんとしないと、相続争いの火種になる可能性があります。今後、具体的な運用方法が発表されると思いますので、動向に注目していきたいと思います。

 

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