令和3年度税制改正大綱では、「ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生」の減免措置等を多く盛り込む内容となっており、そのうちの一つに大企業の「賃上げ・投資促進税制」と中小企業の「所得拡大促進税制」の適用要件等の見直しが含まれています。経済再生のため、企業が生み出した付加価値の従業員給与への還元を促すことが引き続き必要であるということが改正の背景にあると考えられます。
大企業向け、「賃上げ・投資促進税制」の見直し
大企業の「賃上げ・投資促進税制」に係る改正後の適用要件等は、【表1】のとおりとなっています。
賃上げ要件②について、改正後は「新規雇用者給与等支給額」等を用いて判定することになります。既に雇用している従業員らの給与等を増加させるのみでなく,新たに雇用する従業員らの給与等も増加させることが必要となります。(「新規雇用者給与等支給額」と、税額控除割合に係る「控除対象新規雇用者給与等支給額」の範囲は異なるものとなるため注意が必要です。)
「新規雇用者給与等支給額(※1)」については、新たに雇用した“雇用保険の一般被保険者”への給与等のみが対象となる一方で、「控除対象新規雇用者給与等支給額(※2)」については、“労働者名簿に記載された者”への給与等が対象となることとなりました。「控除対象新規雇用者給与等支給額」の方が対象範囲が広く、雇用保険の一般被保険者以外にも、高年齢被保険者(65歳以上の一定の雇用者)等への給与等も含まれます。
【表1】大企業向け、賃上げ・投資促進税制の改正点
改正前 | 改正後 | |
賃上げ要件① | 当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額 | 改正変更なし |
賃上げ要件②(継続雇用者) | 当期の継続雇用者給与等支給額 ≧ 前期の継続雇用者給与等支給額×103% | 廃止 |
賃上げ要件②(新規雇用者) | ※令和3年税制改正で新規創設 | 当期の新規雇用者給与等支給額(※1) ≧ 前期の新規雇用者給与等支給額×102% |
設備投資要件 | 当期の国内設備投資額 ≧ 当期の減価償却費総額…(D)×90% | 廃止 |
税額控除割合 | 雇用者給与等支給額の当期増加額 × 税額控除割合15% | 控除対象新規雇用者給与等支給額(※2)× 税額控除割合15% |
雇用調整助成金等の取扱い | 適用要件の判定…給与等から控除して判定を行う 税額控除の計算…給与等から控除して計算を行う |
適用要件の判定…給与等から控除せず判定を行う 税額控除の計算…給与等から控除して判定を行う |
※1:新規雇用者給与等支給額
・国内で新たに雇用した雇用保険の一般被保険者等に対して、その雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額
・対象・・・雇用保険の一般被保険者のみ
・高年齢被保険者・・・含まない
※2:控除対象新規雇用者給与等支給額
・国内で新たに雇用した者等に対して、その雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額
・対象・・・労働者名簿に記載されたものが対象
・高年齢被保険者・・・含む
中小企業向け、「所得拡大促進税制」の見直し
中小企業の「所得拡大促進税制」に係る改正後の適用要件等は、【表2】のとおりとなりました。
これまでの「継続雇用者給与等支給額」ではなく、「雇用者給与等支給額」の増加割合によって適用要件が判定されます。
また、現行では「継続雇用者給与等支給額」の対前年度増加割合が2.5%以上とされていますが、これを「雇用者給与等支給額」に見直されることとなりました。中小企業においても大企業同様、現行制度の「継続雇用者」の抽出が不要となっています。
【表2】中小企業向け、所得拡大促進税制の改正点
改正前 | 改正後 | |
賃上げ要件① | 当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額 | 改正変更なし |
賃上げ要件②(継続雇用者) | 当期の継続雇用者給与等支給額 ≧ 前期の継続雇用者給与等支給額×101.5% | 廃止 |
賃上げ要件②(雇用者給与等) | 当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額×101.5% | |
税額控除割合 | 雇用者給与等支給額の当期増加額 × 税額控除割合15% | 改正変更なし |
上乗せ要件(教育訓練費) ※要件を満たせば控除割合を25%に上乗せ |
継続雇用者給与等の対前年度増加割合2.5%以上 かつ 当期教育訓練費 ≧ 前期教育訓練費×110%など |
雇用者給与等の対前年度増加割合2.5%以上 かつ 前期教育訓練費 ≧ 前期教育訓練費×110%など |
雇用調整助成金等の取扱い | 適用要件の判定…給与等から控除して判定を行う 税額控除の計算…給与等から控除して計算を行う |
適用要件の判定…給与等から控除せず判定を行う 税額控除の計算…給与等から控除して判定を行う |
「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」の見直し
大企業及び中小企業のいずれの制度においても,適用要件の判定及び控除税額の計算に使用される給与等の支給額から控除される「他の者から支払を受ける金額」の内容について、範囲の明確化(例えば雇用調整助成金)がされ、次の見直しが行われました。
・賃上げ要件を判定する場合には、雇用調整助成金等を給与等支給額から控除しないこととする
・税額計算で使用する「雇用者給与等支給増加額」は、雇用調整助成金等を控除して計算した金額を上限とする
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