経営メモ「シナジー効果(2)戦略ではなく『実行』と『組織』の問題」(Vol.45)


「シナジー効果(2)」

 

前月号で、ご紹介した経済学の中の「経済的になるパターン(利益をもたらす)」のひとつに、「範囲の経済」があります。

範囲の経済は、「いくつかの事業がある場合、それらを異なる企業が手掛けるよりも同一企業で手掛けた方が、コストが減少すること、価値が創出されること」と定義されます。この効果は、多角化の合理的な理由になりますので、範囲の経済は「シナジー効果」と考えていいでしょう。

M&Aにしろ、オーガニックな多角化にしろ、シナジー効果は本当に出るのだろうか?ほとんどの企業が多角化で失敗しているのではないだろうか?と考えてしまいます。

今回は、「本当にシナジー効果は出るのだろうか」という視点から書いてみたいと思います。総論では2つの事が言えます。

1、「シナジー効果」は万能ではない

シナジー効果が万能ではないことについて、スターバックスを例に考えてみましょう。

スターバックスは、家庭でも仕事場でもない「第三の場所」をコンセプトに掲げています。それは、お客様が大き目のソファでくつろぎ、リラックスしてコーヒーを楽しむというものです。そのスターバックスが、食事やアルコールも提供したら、どうなるでしょうか?

オペレーションに限定して考えると、大規模な追加投資なしでも十分提供が可能でしょう。現在のメニューに食事やアルコールを加えることは、「シナジーが発揮できる」という結論になります。

しかしそれでは「コーヒーを楽しむ」という根源的な価値を壊してしまうという恐れがあり、スターバックスはメニュー化しないのだろう、と考えられます。

つまり、ダントツの企業になるには、セオリー通りにやっているだけでは難しく、セオリーを超えた、とがった部分が必要となります。(スターバックスの場合”第三の場所”というストーリーが必要)。

2、「シナジー効果」が発現するにはコストがかかる

実はここが一番大事であり、また多くの経営者が認識していない部分です。

シナジー効果を発現させるためのコストとは、ひと言でいえば調整コストであり、人材のコストです。

シナジー効果を発現するには、本来の事業部を声て他の事業部と調整しながら進めなければなりません。そのためには十分なコミュニケーションが必要です。さらに「濃密な人間関係」「相互理解」「自己犠牲」といったメンタリティーも必要不可欠となります。例えば、部品の共通化といった場面では、2つの事業部の技術者の主張をある程度妥協も交えて結論を出す必要があります。

シナジー効果は「実行」と「組織」の問題

また、いわゆる「クロスセル」の場面を想定してみましょう。
A、B事業部があり、A事業部でB事業部の製品も販売してもらうには、A事業部のスタッフにB事業部の製品の知識を教え込む必要があります。

A事業部と同じような優先順位で販売してもらうという動機付けを行うまでには、やはりそれなりの調整コストがかかるでしょう。

これらのことができる全社的な視点を持った人材は、企業でいえば「エース級」の人材ということになります。

 

オーガニックな多角化であれ、M&Aによる多角化であれ、やはり経営者はエース級の人材を投入しなければシナジーが発揮できない、ということになります。結局はシナジー効果は「戦略」の問題ではなく、「実行」と「組織」の問題、ということになるでしょう。

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